薬剤性肝障害
薬剤性肝障害

薬剤性肝障害とは、薬や健康食品・サプリメントなどを摂取したことが原因で、肝臓にダメージが生じた状態のことです。「薬を飲んでいたら肝臓が悪くなった」という状態が、これにあたります。
「薬は体を治すためのものなのに、なぜ肝臓を傷めるの?」と思われる方も多いかもしれません。肝臓は体内に入ったものを分解・処理する「解毒」の役割を担っています。薬もその例外ではなく、肝臓で代謝(分解・処理)されます。この過程で生じる分解物や免疫反応が肝臓の細胞を傷つけることがあり、これが薬剤性肝障害のメカニズムです。
薬剤性肝障害は、急性肝不全の原因の約10%を占めるとされており、肝障害全体の中でも決して珍しくない原因のひとつです。医療機関で処方される薬だけでなく、市販薬・漢方薬・健康食品・サプリメントなども原因となりえます。「自然由来だから安心」「健康のために飲んでいるだけだから大丈夫」と思って長期間摂取していたものが原因だった、というケースも実際に多く見られます。
薬剤性肝障害は機序により「中毒性(用量依存性)」「特異体質性(用量非依存性)」の2つに大別されます。早期に原因となる薬の使用を中止することで、多くの場合は肝機能の回復が期待できます。しかし、発見が遅れると重篤な肝障害に進行することもあるため、早めの対処が重要です。
薬剤性肝障害は、軽症の場合は自覚症状がほとんどなく、血液検査で初めて異常に気づくことが多い病気です。健康診断や通院中の採血で「肝臓の数値が急に上がった」と指摘されて発覚するケースも少なくありません。
症状が現れる場合は、以下のようなものが見られます。
「体がだるい」「疲れが抜けない」という状態が続くことがあります。「最近なんとなく体調が悪い」と感じていたら、飲んでいる薬やサプリメントが原因かもしれません。
食欲がわかない、胃がむかむかするといった消化器症状が現れることがあります。
肝臓のある右のわき腹あたりに、違和感や鈍い痛みを感じることがあります。
皮膚や白目が黄色くなる状態です。肝臓の機能が大きく低下した場合に現れます。「顔や目が黄色っぽくなってきた」と家族に指摘されて気づくケースもあります。
胆汁の流れが悪くなることで、全身がかゆくなることがあります。
ビール色や褐色の尿が出ることがあります。黄疸が出ているサインのひとつです。
アレルギー反応が関与している場合、発熱や皮膚の発疹が現れることがあります。
重症化した場合は、急性肝不全(肝臓の機能が急激に失われる状態)に至ることもあります。「薬を飲み始めてから体調がおかしい」と感じたら、自己判断で薬を続けず、早めに医療機関を受診してください。
薬剤性肝障害の原因となりうる薬・成分は非常に多岐にわたります。以下はその代表的なものです。
アセトアミノフェン(カロナールなど)は、1日4g以上の大量服用や慢性的な使用で肝障害を引き起こすことがあります。市販の風邪薬や頭痛薬にも含まれていることがあるため、重複して使用しないよう注意が必要です。
ペニシリン系・セフェム系・マクロライド系など多くの抗菌薬が肝障害の原因となることがあります。
イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミドなど、結核の治療薬は薬剤性肝障害の代表的な原因として知られています。
肝臓への負担が大きいものが多く、治療中は定期的な肝機能チェックが行われます。
コレステロールを下げる薬も、まれに肝機能の異常を引き起こすことがあります。
一部の抗うつ薬・抗てんかん薬・睡眠薬なども原因となることがあります。
「自然のものだから安全」と思われがちですが、漢方薬も薬剤性肝障害の原因になることがあります。小柴胡湯(しょうさいことう)、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)、加味逍遙散などが肝障害を起こすことが知られています。
ウコン(クルクミン)・プロポリス・アガリクス・ある種のダイエット食品・プロテインなども原因となることが報告されています。特にウコンは日本の薬剤性肝障害の原因として漢方薬に次いで多いことが報告されています。
複数の市販薬を同時に使用したり、長期間飲み続けたりすると、肝障害のリスクが高まることがあります。
「薬局で買えるものだから」「ずっと飲んでいるから大丈夫」と思わず、肝臓の数値に異常が出た際は、現在摂取しているすべての薬・サプリメント・健康食品を医師に伝えることが大切です。
薬剤性肝障害の発見と経過観察において、血液検査は最も基本的かつ重要な手段です。日本肝臓学会の薬物性肝障害分類では、ALT・ALPの上昇パターンにより「肝細胞障害型」「胆汁うっ滞型」「混合型」に分類されます。
肝細胞がダメージを受けると血液中に漏れ出す酵素です。薬剤性肝障害では、これらの数値が急激に上昇することが多く、「先月は正常だったのに今月は大きく上がっていた」という形で発覚するケースも多いです。基準値上限の3倍以上の上昇は肝障害として明らかに異常です。
胆管に障害が起きると上昇する酵素です。薬剤性肝障害のタイプによって、AST・ALTが主に上昇するもの(肝細胞障害型)と、ALP・γ-GTPが主に上昇するもの(胆汁うっ滞型)があります。
黄疸の程度を示す数値です。数値が高いほど肝臓の機能が低下していることを意味し、重症度の判断に使われます。ビリルビン2倍以上の上昇は重症化のサインとして注意が必要です(Hyの法則)。
肝臓がタンパク質を作る力や、血液を固める力を示します。これらが低下している場合は、重篤な肝障害が疑われます。
アレルギー反応が関与している薬剤性肝障害では、血液中の好酸球(アレルギーに関係する白血球の一種)が増加することがあります。
薬を飲み始めてから定期的に血液検査を行うことで、肝障害を早期に発見することができます。処方薬を開始した際は、医師の指示に従って肝機能検査を受けるようにしましょう。
薬剤性肝障害の診断は、「原因と思われる薬を中止したら肝機能が改善した」という経過も含めて、総合的に判断されます。他の肝臓の病気(ウイルス性肝炎・自己免疫性肝炎・脂肪肝など)との区別も重要です。日本肝臓学会のDDW-J 2004 スコアリングシステムを用いて薬剤性肝障害の可能性を評価します。
現在服用しているすべての薬・市販薬・漢方薬・サプリメント・健康食品を詳しく確認します。「いつから飲み始めたか」「症状が出たタイミング」も診断の重要な手がかりになります。受診の際は、飲んでいるものをすべてメモしてお持ちいただくとスムーズです。
肝機能(AST・ALT・ALP・γ-GTP・ビリルビンなど)に加え、ウイルス性肝炎の検査(B型・C型肝炎ウイルス)、自己抗体検査なども行い、他の肝臓の病気を除外します。
肝臓の大きさ・形・腫瘍の有無などを確認します。脂肪肝や胆管の異常など、他の原因を除外するためにも行われます。当院では高精度エコー(ATI・SWE)も活用できます。
血液を採取し、疑わしい薬に対してリンパ球(免疫細胞)が反応するかどうかを調べる検査です。陽性の場合は原因薬剤の特定に役立ちますが、陰性でも薬剤性肝障害を否定することはできません。
皮膚から細い針を刺して肝臓の組織を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。他の肝臓の病気との区別が難しい場合や、重症度の正確な評価が必要な場合に行われることがあります。
薬剤性肝障害の治療において、最も重要なのは原因と考えられる薬・サプリメントの使用を中止することです。
原因と疑われる薬を中止することが、治療の第一歩であり最も効果的な対処法です。多くの場合、服用を中止してから数週間〜数ヶ月で肝機能の数値が改善していきます。ただし、「自己判断で薬を急にやめる」ことは、元の病気の治療に支障をきたす場合があるため、必ず担当医に相談のうえで中止・変更してください。
軽症の場合は、原因薬を中止して安静にしながら、定期的な血液検査で肝機能の回復を確認する経過観察が基本となります。
急性肝不全に進行した場合は、入院による集中的な治療が必要です。肝移植が検討されることもあります。重症化を防ぐためにも、早期発見・早期対応が非常に重要です。
肝機能が回復した後も、原因となった薬・成分の再使用は原則として避ける必要があります。同じ成分が含まれる他の薬やサプリメントにも注意が必要です。次に別の医療機関を受診する際は、「この薬で肝障害が出たことがある」と必ず伝えるようにしましょう。
以下に当てはまる方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
「薬は医師から処方されたものだから安全なはず」「サプリは食品だから問題ない」と思っていても、肝臓にダメージを与えることがあります。肝臓の数値に異常が出た際は、現在摂取しているすべてのものを医師に伝えることがとても大切です。当院では、肝臓専門医・肝胆膵外科高度技能専門医として、丁寧な問診と検査を通じて原因を探り、患者さんに合った対応をご提案いたします。気になることがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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