過敏性腸症候群
過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは、大腸や小腸に炎症や腫瘍などの明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や便通の乱れ(下痢・便秘など)が慢性的に続く病気です。英語では「Irritable Bowel Syndrome」と呼ばれ、「IBS(アイビーエス)」と略されることもあります。
「検査をしても異常がないと言われたのに、お腹の不調が続いている」という経験をお持ちの方は、過敏性腸症候群の可能性があります。決して「気のせい」や「我慢すれば治るもの」ではなく、日常生活に支障をきたすこともある立派な病気です。
過敏性腸症候群は、消化器疾患の中でも非常に多い病気のひとつで、日本人の有病率は約6〜14%と報告されています。特に若い世代(10〜30代)や、責任感が強くまじめな方に多い傾向があるとされています。男女比では女性の方が約1.6倍多く、女性では便秘型、男性では下痢型が多いと言われています。
過敏性腸症候群の症状は人によってさまざまですが、共通しているのは「腸に異常がないのに、お腹の不調が繰り返し起こる」という点です。主な症状は以下のとおりです。
お腹がしくしく痛む、ぎゅっと締め付けられる感じがするなど、排便と関連した腹痛が特徴的です。トイレに行って排便すると痛みが和らぐことが多いです。
突然強い便意をもよおし、水のような便が出る。「電車の中やトイレのない場所で急にトイレに行きたくなる」という経験をお持ちの方も多いです。
何日もお通じがない、出ても少量でスッキリしないといった状態が続きます。
下痢が続いたと思ったら今度は便秘になるなど、便通が安定しない状態が続くことがあります。
お腹がパンパンに張る、ガスがたまる、おならが多くなるといった症状が現れることがあります。
排便後も「まだ出きっていない」という感覚が残ることがあります。
これらの症状は、試験・仕事・外出前など、緊張やプレッシャーを感じる場面で悪化しやすいのも特徴です。「大事な日に限ってお腹が痛くなる」という経験がある方は、過敏性腸症候群のサインかもしれません。
過敏性腸症候群はローマⅣ基準に基づき、便の形状によって以下の4タイプに分類されます。
便秘型(IBS-C)
硬い便が多い
下痢型(IBS-D)
軟らかい便・水様便が多い
混合型(IBS-M)
便秘と下痢を繰り返す
分類不能型(IBS-U)
上記のいずれにも当てはまらない
過敏性腸症候群の原因はひとつではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
私たちの腸と脳は密接につながっており、「脳腸相関(のうちょうそうかん)」と呼ばれる関係があります。緊張したときにお腹が痛くなったり、ストレスで下痢になったりするのはこのためです。過敏性腸症候群の方は、この脳と腸のやりとりが過敏になっており、少しの刺激でも強い腹痛や便通の乱れとして感じやすくなっていると考えられています。
仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、生活環境の変化など、心理的なストレスは過敏性腸症候群の症状を悪化させる大きな要因のひとつです。「ストレスが多い時期にお腹の調子が悪くなる」という方は多いかと思います。
腸の中には無数の細菌(腸内細菌)が住んでおり、腸の健康を守る役割を担っています。このバランスが乱れると、腸の機能に影響が出やすくなると考えられています。食生活の乱れや抗菌薬の使用などが腸内環境に影響することがあります。
食中毒や感染性胃腸炎(いわゆる「お腹の風邪」)にかかったあとに、過敏性腸症候群を発症するケースがあります。「感染後IBS(PI-IBS)」と呼ばれており、感染性腸炎を発症した方の約10%程度がその後IBSを発症すると報告されています。腸の炎症をきっかけに腸の過敏性が高まることが原因と考えられています。
脂っこい食事、暴飲暴食、不規則な食生活、睡眠不足なども腸の調子を乱す原因になりえます。特定の食品(乳製品・小麦・豆類など)が症状を悪化させると感じる方もいらっしゃいます。近年はFODMAP(発酵性オリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオール)と呼ばれる発酵しやすい糖質が症状を悪化させることが知られており、低FODMAP食が症状改善に有効とされる方もいます。
過敏性腸症候群の症状(腹痛・下痢・便秘・血便など)は、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)、大腸ポリープなど、他の大腸の病気と似ていることがあります。「ただの過敏性腸症候群だろう」と自己判断して放置してしまうと、重大な病気を見逃してしまう可能性があります。
特に以下のような「警告症状(アラームサイン)」がある場合は、過敏性腸症候群以外の病気が隠れていないかを確認するために、大腸カメラ検査などの検査を受けることが重要です。
大腸カメラ検査(大腸内視鏡検査)では、大腸の内部を直接観察し、炎症・ポリープ・がんなどの有無を確認することができます。「検査で異常がなかった」という結果が出て初めて、過敏性腸症候群と診断される場合も多いです。当院では鎮静薬を使用することで眠っている間に検査を受けていただけます。「お腹の不調が続いているけど、検査は怖い…」という方も、まずはご相談ください。
過敏性腸症候群の診断は、症状の確認と他の病気の除外を組み合わせて行われます。診断にはローマⅣ基準が用いられており、「過去3ヶ月間、平均して週1日以上の腹痛があり、排便に関連した症状(排便によって改善・排便頻度の変化・便形状の変化)が伴うこと」が条件となります。
いつから・どんな症状があるか・排便との関係・ストレスの有無・食事内容などを詳しくお聞きします。症状のパターンや生活習慣が診断の大切な手がかりになります。
炎症反応・貧血・甲状腺機能など、お腹の不調を引き起こす他の原因がないかを調べます。
便に血液や感染症の原因菌が混じっていないかを調べます。感染性腸炎など、似た症状の病気と区別するために行います。
大腸の内部を直接観察し、炎症・潰瘍・ポリープ・がんなどの有無を確認します。過敏性腸症候群では大腸に目立った異常が見られないことが特徴で、他の病気を除外するうえで非常に重要な検査です。
お腹に超音波を当てて、臓器の状態を確認します。体への負担が少なく、気軽に受けられる検査です。
過敏性腸症候群の治療は、「症状を和らげ、生活の質を高めること」を目標に行われます。薬による治療と生活習慣の改善を組み合わせて行うことが基本です。
ポリカルボフィルカルシウムなど、腸の動きを整え、下痢・便秘・腹痛などの症状を和らげる薬です。過敏性腸症候群の治療でよく使用されます。
5-HT3拮抗薬(ラモセトロン)が下痢型IBS、特に男性のIBS-Dに保険適用を取得しています。
粘膜上皮機能変容薬(リナクロチド)が便秘型IBSに保険適用を取得しています。緩下剤(マグネシウム製剤など)も使用されます。
善玉菌を補って腸内フローラのバランスを整える効果が期待されます。
ストレスや不安が強く関わっている場合に、脳腸相関を介して腸の過敏性を抑える目的で使用されることがあります。
ストレスや不安が症状に強く影響している場合は、認知行動療法(考え方のクセを整える心理療法)やリラクゼーション法が症状の改善に役立つことがあると報告されています。
過敏性腸症候群は完全に治すことが難しい場合もありますが、適切な治療と生活習慣の見直しによって症状をコントロールし、日常生活を快適に過ごすことを目指すことができます。「ずっとこのままなのかな」と不安に思わず、まずはご相談ください。
以下に当てはまる方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
「お腹の不調くらいで病院に行っていいのかな」と遠慮される方もいらっしゃいますが、慢性的なお腹の不調は生活の質に大きく影響します。また、似た症状の中に重大な病気が隠れていることもあるため、気になる症状は早めにご相談いただくことが大切です。当院では、患者さんお一人おひとりの症状やライフスタイルに合わせた丁寧な診療を心がけております。どうぞお気軽にお声がけください。
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