脂肪性肝疾患
脂肪性肝疾患

脂肪性肝疾患とは、肝臓に過剰な脂肪がたまることで起こる肝臓の病気の総称です。肝臓全体の5%以上に脂肪が蓄積した状態を「脂肪肝」といい、その原因によって大きく2種類に分けられます。
ひとつはアルコール性肝障害(ALD)で、長期間にわたる過剰な飲酒が原因で起こります。もうひとつはMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)で、肥満・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病が背景にあり、お酒をほとんど飲まない方でも発症します。
2023年6月に欧州肝臓学会(EASL)、米国肝臓病学会(AASLD)、ラテンアメリカ肝疾患研究協会(ALEH)が合同で、従来のNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)/NASH(非アルコール性脂肪肝炎)から、MASLD/MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)へと国際的な名称変更を発表しました。日本肝臓学会・日本消化器病学会も2024年8月にこれに賛同し、日本語病名を正式決定しています。
日本人成人の脂肪肝の有病率は約30%とも言われており、非常に身近な病気のひとつです。「健診でひっかかったけど症状がないから大丈夫だろう」と放置してしまう方も多いですが、適切な対処をしないと肝炎・肝硬変・肝臓がんへと進行するリスクがあります。
脂肪性肝疾患は、初期〜中期にかけてはほとんど自覚症状が出ないのが最大の特徴です。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、脂肪がたまっていても痛みや不快感を感じにくい臓器です。
症状が現れる場合は、以下のようなものが見られます。
病気が進行して肝硬変になると、黄疸・腹水・むくみ・出血しやすくなるなど、より深刻な症状が現れます。MASHによる肝硬変からの肝がん発生率は年1〜3%と高く、そこまで進行してしまってからでは治療の選択肢が限られることもあるため、症状がない段階での早期発見が重要です。
脂肪性肝疾患の原因は、大きく「生活習慣・代謝の問題」と「アルコール」に分けられます。
MASLDは脂肪肝に加えて、以下の心血管代謝リスク因子を1つ以上持つ場合と定義されます。
その他のリスク要因として運動不足、急激なダイエット(逆に脂肪肝を悪化させることがあります)も挙げられます。
長期間にわたる多量の飲酒は、肝臓での脂肪の代謝を妨げ、脂肪が肝臓にたまりやすくなります。男性で純エタノール60g/日(日本酒で約3合、ビールで中瓶3本、ウイスキーダブルで3杯相当)以上、女性で40g/日以上の飲酒が長期間続くとリスクが高まります。アルコール性脂肪肝は禁酒・節酒によって改善が期待できますが、飲酒を続けると肝炎・肝硬変へと進行するリスクが高まります。
新しい分類として、代謝異常とアルコール摂取の両方が関与する脂肪性肝疾患も定義されています。
脂肪性肝疾患の発見において、血液検査は最初の重要な手がかりです。健康診断で以下の数値に異常が出た場合は、脂肪肝が背景にある可能性があります。
肝細胞がダメージを受けると上昇する酵素です。脂肪性肝疾患ではALTがASTより高くなる傾向があります。
アルコールの影響を受けやすく、飲酒習慣がある方で特に上昇しやすい数値です。MASLDでも上昇することがあります。
血液中の脂肪量を示します。高い場合は肝臓への脂肪蓄積と関連していることがあります。
糖尿病やその予備群との関連を確認するために測定します。
脂質のバランスを確認します。
AST・ALT・血小板数・年齢から計算される線維化リスク評価指標です。1.31以上で線維化中リスク、2.67以上で高リスクとされ、専門医への紹介の判断に使われます。
「ALTが少し高い」「γ-GTPが引っかかった」という程度でも、放置せず一度専門医に相談することをおすすめします。
脂肪性肝疾患の診断は、血液検査と画像検査を組み合わせて行われます。
肝機能・脂質・血糖値・FIB-4 indexなどを調べます。
脂肪肝の診断において最もよく使われる画像検査です。脂肪肝では肝臓が白っぽく明るく映る「輝度上昇」という特徴的な所見が見られます。痛みがなく体への負担が少ない検査です。
当院では肝臓の脂肪量を数値で測定するATI(Attenuation Imaging)、肝臓の硬さ(線維化の程度)を測定するSWE(シェアウェーブエラストグラフィー)を導入しています。採血と組み合わせて、脂肪肝がどの段階にあるのか、将来の肝硬変・肝がんに進行するリスクがどの程度あるのかを客観的に評価できます。
脂肪の量をより詳しく調べたり、腫瘍の有無を確認したりするために行われます。
皮膚から細い針を刺して肝臓の組織を少量採取し、炎症・線維化の程度を顕微鏡で確認します。病状の正確な評価が必要な場合に行われます。
脂肪性肝疾患の治療の基本は生活習慣の改善です。総カロリーを適正化し、糖質・脂質の過剰摂取を控えます。地中海食(野菜・果物・全粒穀物・魚・オリーブオイルが中心)が肝臓の脂肪減少に有効とされており、欧州肝臓学会のMASLDガイドラインでも推奨されています。砂糖入り飲料・超加工食品の摂取制限も重要です。
有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・水泳など)を週150分以上行うことが目標とされています。「エレベーターより階段を使う」「一駅分歩く」など、日常の中でこまめに体を動かすことも大切です。
体重を5〜10%減らすことで、肝臓の脂肪量の改善が期待できると報告されています。特にMASHでは7〜10%の減量で線維化の改善も期待できるとされています。急激なダイエットは逆効果になることがあるため、ゆっくりと無理なく継続することが大切です。
アルコール性脂肪肝では、禁酒が最も重要な治療です。飲酒量を減らすことで肝機能の改善が期待できますが、すでに肝炎・肝硬変に進行している場合は完全禁酒が必要です。
合併する生活習慣病(糖尿病・脂質異常症・高血圧)の治療を最適化することが重要です。糖尿病合併MASLDではピオグリタゾン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などが肝臓にも好影響を与えると報告されています。MASH治療薬として、2024年3月に米国でレスメチロム(resmetirom)が世界初承認されました(日本ではまだ未承認)。今後、新しい治療薬の登場が期待されています。
「脂肪肝くらいなら大したことない」と思われがちですが、放置すると段階的に病気が進行するリスクがあります。
脂肪がたまった肝臓に炎症が加わった状態です。倦怠感・食欲不振などの症状が現れることがあります。
炎症が長年続くことで肝臓の組織が硬く変性した状態です。一度なると元の状態に戻ることは難しく、さまざまな合併症を引き起こします。
MASH肝硬変からの年間肝発がん率は1〜3%と報告されており、定期的なサーベイランスが重要です。
「脂肪肝と言われてから何年も放置していたら、気づいたときには肝硬変だった」というケースも実際にあります。症状がないうちに生活習慣を改善し、定期的な検査で肝臓の状態を確認することが、肝臓を守る最大の方法です。
健康診断でAST・ALT・γ-GTPなどの肝機能数値に異常を指摘された方や、「脂肪肝の疑い」と言われた方は、ぜひ一度専門の医療機関を受診してください。健診の結果はあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、正確な状態を把握するためにはより詳しい検査が必要です。「来年また健診を受ければいい」と先延ばしにしている間にも、肝臓へのダメージが積み重なることがあります。
また、「基準値内だから問題ない」と安心してしまう方もいますが、腹部超音波検査を行うと脂肪肝が見つかることもあります。数値だけで判断せず、気になる方は一度しっかり検査を受けることをおすすめします。
以下に当てはまる方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
「症状がないから大丈夫」は、肝臓に関しては特に注意が必要です。脂肪性肝疾患は症状が出にくいからこそ、定期的な検査と早めの対処が肝臓を守る大きな一歩になります。当院では、肝臓専門医・肝胆膵外科高度技能専門医が、高精度エコー(ATI・SWE)と血液検査で肝臓の脂肪量・線維化を数値評価し、患者さんの生活スタイルに合わせた無理のない改善方法をご一緒に考えながら、継続的にサポートいたします。気になることがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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